戦いの神アレスを石で倒した女神アテナ|なのに二人は、共に祭られていた

アテナとアレスは敵?石で倒した女神と、共に祭られた戦いの神

知恵の女神アテナと、戦いの神アレス。ギリシャ神話でよく比べられる二柱は、ホメロスの『イリアス』で正面からぶつかります。アテナは大きな石で、アレスを打ち倒しました。

ところが、古代アテネのある地区では、この二柱が共に祭られていたことが、実際に残る石碑からわかっています。しかも石碑の上には、アテナが戦いの神に冠をのせる浮き彫りまで刻まれていました。

この記事では、二柱の生まれと対決の場面を原典にそってたどり、二柱を共に迎えた人々の記録を紹介します。怒りと知恵は敵なのか、潜在意識から考えてみましょう。

https://youtu.be/SESGpb_eo4o

この記事でわかること

  • アテナとアレスが、どちらもゼウスの子で、どちらも戦いの神であること
  • 『イリアス』第21巻で、アテナがアレスを石で倒した場面
  • アテナとアレスを共に祭った、古代アテネの石碑と浮き彫り
  • 若者たちの誓いに刻まれた、二柱の名前
  • 怒りを消すのではなく「選び直す」という考え方

ひと目でわかる「二柱の宿命」

項目 内容
二柱の父 神々の王ゼウス
アテナの生まれ ゼウスの頭から、鎧を着て生まれる
アレスの生まれ ゼウスと女王ヘラの子
対決の場面 『イリアス』第21巻、神々の戦い
勝負を決めたもの 畑の境に据えられた大きな石
共に祭った場所 古代アテネの地区アカルナイ
石碑の浮き彫り アテナが、武装した神に冠をのせる

物語の流れを図で確認

flowchart TD
    A1["鎧を着て
生まれた女神"] A2["破られた
約束"] A3["神々が
戦場へ"] A4["アレスの
突進"] A5["畑の境の石で
倒れる"] A6["実際に残る
二つの石碑"] A7["冠をのせる
女神の浮き彫り"] A8["若者たちの
誓い"] A1 --> A2 --> A3 --> A4 --> A5 --> A6 --> A7 --> A8 classDef birth fill:#FEF3C7,stroke:#D97706,color:#451A03 classDef war fill:#FEE2E2,stroke:#DC2626,color:#450A0A classDef stone fill:#E0E7FF,stroke:#4F46E5,color:#1E1B4B classDef oath fill:#DCFCE7,stroke:#16A34A,color:#14532D class A1 birth class A2,A3,A4,A5 war class A6,A7 stone class A8 oath linkStyle default stroke:#94A3B8,stroke-width:2px

アテナとアレスはどんな神?同じ父をもつ二柱

知恵の女神と戦いの神は、正反対の神のように思われがちです。けれど原典を読むと、二柱にはいくつもの共通点があります。

鎧を着て生まれた女神アテナ

ヘシオドスの『神統記』によると、アテナは父ゼウスが自分の頭から生んだ女神です。『ホメロス風讃歌』の一つは、その誕生の場面をこう歌います。

  • 金色に輝く鎧を着て、鋭い槍を振りながら跳び出した
  • オリュンポスの山が揺れ、大地が叫んだ
  • 海が黒い波を立て、白いしぶきを上げた
  • 太陽の神は馬を止め、女神が鎧を脱ぐまで待った

生まれた瞬間から、アテナは戦いの姿をしていたのです。

アレスもゼウスの子

戦いの神アレスは、ゼウスと女王ヘラの子です。アテナとアレスは、父が同じきょうだいということになります。

『イリアス』第5巻では、アレスが父ゼウスに「父上ご自身が生んだ娘だから、好きにさせておくのですね」と訴える場面があります。頭から生まれたアテナを、父がかばっていると感じていたのでしょう。

知恵の女神も、戦いを好む

アテナは知恵の女神として知られます。ただ、古い詩はアテナを、戦いのとどろきを好む女神とも歌っています。

よく言われる見方 原典の姿
アレスは激しい戦いの神 アレスは戦いの激しさそのものの神
アテナは知恵の神で、戦いを好まない アテナも戦いのとどろきを好む
二柱は正反対 讃歌は「アレスとともに戦いを好む」と歌う
アテナは町を守る 戦いに出る人々を守り、無事に帰す

「激しいアレス、知恵のアテナ」は、わかりやすい見方の一つにすぎません。

二柱の間にあった火種

『イリアス』第5巻で、アテナはアレスを強く責めています。ギリシャ側を助けると、母ヘラとアテナに約束しながら、トロイア側についたというのです。

アテナは人間の英雄ディオメデスの槍を、アレスの腹へと押し込みました。この戦いの神の負傷は、二柱の間に深い恨みを残します。

アテナがアレスを石で倒した日|『イリアス』第21巻

二柱が正面からぶつかるのは、トロイア戦争の終わり近く、神々までが戦場に降りた日のことです。

神々が戦場に降りた日

ゼウスは神々にこう言いました。「私はオリュンポスの谷に座って、眺めて楽しもう。おまえたちは、好きな側を助けよ」。

アテナはギリシャ側の陣の堀のそばや、波の打ちよせる浜辺で叫びました。アレスは黒いつむじ風のように、トロイアの町の頂から叫びます。神々が組になって向かい合う中で、アレスの相手となったのがアテナでした。

大地が鳴り、天が響いた

神々はとどろきとともにぶつかりました。広い大地が鳴り、大きな天がラッパのように響いたといいます。オリュンポスのゼウスはその音を聞き、神々がぶつかり合うのを見て、喜んで笑ったのです。

アレスの突進と、雷も通さない武具

先に動いたのはアレスでした。青銅の槍を手にアテナへ跳びかかり、「この犬バエめ」とののしります。犬バエは、ずうずうしい者へのののしりの言葉です。

アレスは、ディオメデスの槍で傷つけられた恨みを持ち出し、「今こそ、つぐないをさせてやる」と叫びました。槍はアテナのアイギスに当たります。ゼウスの雷でさえ打ち破れない、房のついた神の武具でした。

畑の境に据えられた石

アテナは一歩下がり、平原に横たわっていた黒く荒い大きな石を、たくましい手でつかみました。昔の人々が、畑の境のしるしに据えた石です。

flowchart TD
    B1["槍は
アイギスに"] B2["アテナが
一歩下がる"] B3["畑の境の
石をつかむ"] B4["石が
首に当たる"] B5["大地に
長く倒れる"] B6["アテナの
笑い"] B1 --> B2 --> B3 --> B4 --> B5 --> B6 classDef ares fill:#FEE2E2,stroke:#DC2626,color:#450A0A classDef athena fill:#E0E7FF,stroke:#4F46E5,color:#1E1B4B classDef fall fill:#FEF3C7,stroke:#D97706,color:#451A03 class B1 ares class B2,B3,B6 athena class B4,B5 fall linkStyle default stroke:#94A3B8,stroke-width:2px

石はアレスの首に当たり、手足から力が抜けました。倒れた体は、7プレトロンにわたって大地に長く伸び、髪は土にまみれ、鎧が鳴り響いたといいます。プレトロンは古代の長さの単位で、ここは途方もなく大きな体を表す言葉として読むのがよいでしょう。

「母ヘラの呪いをつぐなうのだ」

アテナは笑い、勝ち誇って言いました。「愚か者。私がどれほど強いか、まだわからないのか」。ギリシャ側を見捨てたアレスに、母ヘラの呪いをつぐなわせたのだ、とも告げます。

アレスの「つぐないをさせてやる」に、アテナが同じ「つぐない」の言葉で返しているのです。言い終えると、アテナは輝く目をアレスからそらしました。

アフロディテも倒れる

愛の女神アフロディテが来て、うめき続けるアレスの手を取り、連れ出そうとしました。アレスは、やっと息を取りもどすほどだったといいます。

それに気づいたアレスの母ヘラにうながされ、アテナは追いかけて、アフロディテの胸を手で打ちます。アフロディテとアレスは、ともに大地に倒れました。知恵の女神も、ここでは石と手で戦ったのです。

共に祭られた二柱|アカルナイの石碑

戦場ではアテナの勝ちでした。ここからは物語ではなく、実際に残る石碑の話です。

古代アテネでいちばん大きな地区

古代アテネには、アカルナイという、いちばん大きな地区がありました。この地区の、今からおよそ2350年前の石碑が、二つ残っています。どちらも、アレスとアテナを共に祭った記録です。

研究者の注解によると、ローマ時代より前のアテネの地域で、アレスを祭った場所として知られているのは、このアカルナイだけです。

神のお告げと、二柱の祭壇

一つめは、アカルナイの人々の決まりを刻んだ石碑です。神のお告げが「アレスとアテナ・アレイアの祭壇を建てるほうが、この地区にも国全体にもよい」と答えたので、人々は祭りに間に合うよう、できるかぎり立派に祭壇を建てると決めました。

アレイアは、アレスの名から生まれた「戦いの」という意味の呼び名です。アテナは、アレスの名をもつ呼び名で祭られていたのです。

冠をのせる女神の浮き彫り

この石碑の上には、浮き彫りがあります。アテナが、武装した神の頭に冠をのせている姿です。同じ大きさで刻まれたその神は、アレスとみられています。

戦場では石で倒した相手に、ここでは女神が冠をのせていたのです。

若者たちの誓い

二つめは、アレスとアテナの両方に仕える神官が捧げた石碑です。上には丸い盾と兜が刻まれ、兵士になる若者たちの誓いが記されています。

誓いの中身(要約) 誓いを見とどけるもの
聖なる武器をはずかしめない 多くの神々
隣に立つ仲間を見捨てない アレスとアテナ・アレイア
祖国をより大きく、より良くして引き継ぐ 祖国の境
町を治める人と法に、よく考えて従う 小麦、大麦、ぶどう、オリーブ、いちじく

誓いを見とどける神々の中に、アレスとアテナが並んで記されています。

境の石と、祖国の境

戦場では、畑の境に据えられた石が、戦いの神を倒す武器でした。石碑では、祖国の境と実りが、若者たちの誓いを見とどけるものとして並んでいます。

物語の石と石碑の石は、別のものです。それでも「境」という同じ言葉が、戦場と祈りの両方に出てくるのは、印象に残るところです。

もう一つのアテナ・アレイア

アテネの「アレスの丘」にも、アテナ・アレイアの祭壇があったと伝わります。旅行記の作者パウサニアスによると、母を殺した罪で裁かれた英雄オレステスが、無罪になったあとに捧げた祭壇です。アレスの丘という名前は、アレス自身がここで初めて裁かれたことから来たといいます。

潜在意識から読み解く「怒り」と「知恵」

ここからは神話を離れて、私たちの心について考えます。原典に書かれていることと、読み手としての考えを分けてお読みください。

怒りと知恵は、敵なのか

物語の中の二柱は、敵でした。けれど人々は、二柱を共に祭り、女神が戦いの神に冠をのせる姿まで刻みました。

flowchart TD
    D1["怒りに任せた
突進"] D2["戦場で
倒れる"] D3["人々は
二柱を共に祭る"] D4["怒りと知恵
どちらも必要?"] D5["怒ったあとを
選び直す"] D1 --> D2 --> D3 --> D4 --> D5 classDef anger fill:#FEE2E2,stroke:#DC2626,color:#450A0A classDef stone fill:#E0E7FF,stroke:#4F46E5,color:#1E1B4B classDef think fill:#FEF3C7,stroke:#D97706,color:#451A03 classDef hope fill:#DCFCE7,stroke:#16A34A,color:#14532D class D1,D2 anger class D3 stone class D4 think class D5 hope linkStyle default stroke:#94A3B8,stroke-width:2px

私たちの怒りと知恵も、どちらかを消す相手ではなく、ともに必要な力なのかもしれません。

気持ちと行動を分けて考える

古い恨みを抱えたまま、怒りに任せて突進したアレスは、一歩下がった女神に倒されました。怒りが生まれるのは、大切なものが傷つけられたと、潜在意識が感じたときなのかもしれません。

心理学では、腹が立つという気持ちと、相手を傷つける行動を、分けて考えます。怒りを感じること自体は、責めなくてよいのです。

受け止めることと、見方を変えること

心理学の研究では、ふだん、怒っている自分を認めたり、見方を変えたりする人ほど、怒りが弱い傾向がありました。同じことを考え続けたり、表に出さず押し殺したりする人ほど、怒りは強い傾向でした。

わかっていること 言いすぎになること
認める・見方を変える人ほど怒りが弱い傾向 見方を変えれば、怒りは必ず消える
考え続ける・押し殺す人ほど怒りが強い傾向 押し殺すと必ず爆発する
多くは同時に測った研究 どれが原因かまでわかっている

気持ちをコントロールする言葉で文を組み立てた人たちが、挑発されたあとの怒りを小さめに答えた、という実験もあります。比べた相手は、気持ちを外に出す言葉で文を組み立てた人たちでした。

怒りを消すのではなく、選び直す

怒りを消すのではなく、怒ったあとを選び直す。選べるのは、出来事の受け取り方と、次の行動です。

  • 怒りを感じた自分を、責めずに受け止める
  • 出来事の受け取り方を、一つだけ変えてみる
  • すぐに動かず、次の行動を選ぶ時間をとる

あの若者たちの誓いも、戦いの神と知恵の女神の前で、よく考えて従う、というものでした。

よくある質問(FAQ)

Q1. アテナとアレスは、どちらが強いのですか?

『イリアス』では、アテナがアレスに勝つ場面が二度あります。第5巻ではディオメデスの槍をアレスの腹へ押し込み、第21巻では大きな石でアレスを倒します。

Q2. アテナとアレスは、きょうだいですか?

どちらも神々の王ゼウスの子です。アレスの母は女王ヘラで、アテナはヘシオドスの『神統記』によると、ゼウスが自分の頭から生んだ女神です。

Q3. アイギスとは何ですか?

アテナの身を守る神の武具です。『イリアス』第21巻では、房がついていて、ゼウスの雷でさえ打ち破れないものとして語られます。

Q4. アテナ・アレイアとは、どんな女神ですか?

アレスの名から生まれた「戦いの」という呼び名をもつアテナです。古代アテネのアカルナイでは、アレスとアテナ・アレイアが共に祭られていました。

Q5. 古代アテネでは、アレスは嫌われていたのですか?

嫌われていたとは言い切れません。アカルナイには二柱を共に祭った石碑が二つ残り、若者たちの誓いを見とどける神々の中にも、アレスの名があります。

Q6. 知恵の女神なのに、なぜアテナは戦うのですか?

古い詩は、アテナを戦いのとどろきを好む女神とも歌い、戦いに出る人々を守る町の守り手として描きます。知恵の女神であることと、戦う女神であることは、両立しているのです。

Q7. 7プレトロンとは、どのくらいの大きさですか?

プレトロンは古代ギリシャの長さの単位です。ここでは、倒れたアレスの途方もなく大きな体を表す言葉として読むのがよいでしょう。

まとめ|石で倒した女神は、冠をのせていた

問い 答え
二柱の関係は? どちらもゼウスの子で、どちらも戦いの神
どちらが勝った? 『イリアス』第21巻では、アテナが石で倒す
勝負を決めたのは? 昔の人々が畑の境に据えた石
人々は二柱をどう迎えた? アカルナイで、共に祭っていた
石碑の浮き彫りは? アテナが武装した神に冠をのせる
潜在意識から見ると? 怒りを消すのではなく、怒ったあとを選び直す

戦場で敵だった二柱を、人々は共に祭り、女神が戦いの神に冠をのせる姿まで刻みました。怒りと知恵は、敵ではなく、ともに必要な力なのかもしれません。

怒りを感じたとき、あなたを落ち着かせてくれる知恵は何でしょうか。

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